ながいけん『第三世界の長井』1巻2巻3巻4巻 感想と解釈と考察と解説 I・Oと音那が可愛すぎる
はじめに
僕は漫画が好きで300タイトル以上読んでいるのですが『第三世界の長井』は一番好きな部類に入ります。
かなり面白いと思うのに知名度が低い。
ゲッサンの2018年11月号の連載分とかかなり面白い回だったのですがTwitterをサーチする限り言及している人が5人もいなかった。悲しい。
僕は好きな作品について色々な感想を読みたいんですよね。
そういう人は他にもいると思うので『第三世界の長井』の読者に向けて好きなシーンに触れたり、自分の感想や自分の解釈を長々と書いてみます。
ギャグシーンは面白いと思うけど言うようなことがあまりないのでサスペンス編というかI・O編を主に。
ちなみに”『第三世界の長井』考[3N]”というサイトがこの漫画の3巻までを非常に細かく考察していてすごいので、もし未読なら読むことを強くおすすめします。
以下ネタバレ注意
第1巻
第1話
4-5ページ
この自衛隊と戦車と機動隊と町の破壊される描写は4巻ラストの邪神星人と繋がると予想していますが、右下のコマは知らない人ばかりですね。
話の終わりが近いのかまだまだ続くのか…。
I・Oと音那が背を向けて立っているのは二人の関係を端的に表していますが、音那はI・Oを見ているっぽいんですよね(24ページでI・Oがしていることと同じ原理で)。
僕は、I・Oは音那が大好きだし音那もI・Oが大好きだと勝手に思っているので萌えます。
8-10ページ
この漫画は読者を意識したような説明口調を極力排しているようで非常に少ない。
例えば電話口で「え?なんですって!?○○が車に轢かれた!?」みたいな台詞をどこかで見たことがあると思いますが、この漫画の電話シーンは読者にとって意味不明なことがある。
ですがさすがに第一話だからか珍しくI・Oが長々と必要な情報を喋っているシーン。
ここの音那は「仲違いしていたショウ君が普通にお話してくれる! やったぁ!」って思っているんですけど(断定)、突然黙れと言われてちょっと泣きそうになっています。可愛いですね。
13ページ
最近気づいたんですがこのページから4巻終わりまで帽子のマークが変わってる。
14ページ
「たまたま通りかかった全然関係ないバカとしか…」
「ちょっと待ってよ。」
「○○としか…」構文は実はI・Oの口癖で後にもう一度使用しています(単行本未収録)。
きつい喋り方が多いI・Oですがたまに○○してよって口調になります。
子供だからなんですかね?
I・Oって色んな人に子供扱いされていますがあまり子供に見えない。
22ページ
「お前等仲良くしてろよ。」
「宇宙人友達かよ。」
I・Oはこの時点では長井と博士を半分ただのヤバイ人だと思っているのに情報を引き出す以外の目的で声を掛けている。優しい。
第2話
55ページ
「あっちでやれよ。」
音那との会話を邪魔されたくないI・O。
前回の音那の登場シーンでは都合上近くで会話していましたが「俺達の認識は距離だって超えてんだ。」(3巻-170ページ)という本人の言の通り、彼らは遠距離でも普通に会話できるようで、今後音那との会話はすごく距離が離れていたりする。もしかしたら心の距離を表しているのかもしれない。
第3話
70ページ
この辺を読んでいて思い出しましたが『第三世界の長井』にSCPの雰囲気を感じる人は結構多いみたいです。
SCPについてある程度知っているならTwitterで「第三世界の長井 SCP」で検索すると面白いかもしれません。
https://twitter.com/GcoBAvlvW3i52V5/status/910805597573996544
このツイート何かとても面白い。
79ページ
「あ…おい…」
オタ丸らに逃げられて異常者に囲まれることになって残念なI・O。
I・Oはオタ丸らに好意的なのか別れの挨拶をすることが多い。
4話
94ページ
貴重なI・Oの赤面シーン。
「ツーカお前誰デスカーッ?」
聞かれても無視するI・O。
自分でも自分のことがよく分かっていないため。
さっきからI・O、I・Oと連呼していますが作中でまだI・Oの名前は出てきません。
101ページ
「お前はもう人間じゃなくなってるんで。」
これ今まで気付かなかったがホラーシーンかもしれない。
ギャグだったらいいが博士が冗談を言っている場面他にないみたいだけど。
第2巻
6話
5-7ページ
「お前あっち行ってろよ。」
音那との会話を邪魔されたくないI・O。
「神様ごっこは楽しかったか?」
「俺を追い出しといて…」(3巻)
I・Oの上の台詞は下の台詞を加味して考えれば、半年前に神をやっていた頃はI・Oが主神で音那は補佐的な役割を果たしていたらしいことがわかります。
「…だからどうした。それこそ神様ごっこだ。」
この音那の返事が意味がいまいちわからない。
台詞の前に三点リーダーがついているから苦しい返事なのはなんとなくわかりますけど。
神様なら全てを救うべきと言うI・Oに対して、全員を救えるわけがないと言い長井等を歪めたことを正当化しているってことですかね?
14ページ
「物語にずれが生じたみたい。」
男性語で話す音那にしては珍しい柔らかい口調。
「○○みたい。」構文は音那の口癖のようで後で再び使われます。
I・Oの○○としか… もそうなのですが、読み返して始めて気付くくらいの口癖は塩梅が丁度良いですね。
長井や博士なんかはキャラクターなのでまた同じこと言っているなと思われても構わないけど、I・Oや音那は人間として描いているから普通の喋り方をする必要がある。
例えばもし事あるごとに”だってばよ”とか言っていたら物語が破綻する。
7話
32ページ
「…神。」
超重要シーン。初見で笑いながら3度見くらいした覚えがある。
長井に神と明かしたところで何にもならないと思っているからこんなこと言ってるんでしょうけど、長井は実はこの言葉をちゃんと覚えているようです。魂を感じないとか虚無だと言われていた初期の長井とは少しずつ変わっているみたい。
I・Oは長井なんかに一定の好意を抱いている節があるが、一応とは言えこの秘密を明かしていることが関係しているのかもしれない。
54ページ
この団子を食べるコマはお気に入りなのですが、このシーンのイラストを書いている人を見かけたことがあるしこのコマ好きと言っている人も見かけたことがある。
I・Oの食事シーンは全部好き。
ヴェーレちゃんも可愛いし。
8話
69ページ
I・O歯切れ悪くない?
3巻でオタ丸等に話しかける時は普段通りなのに。
女の子に緊張するな。
100ページ
「あなた結局誰なの?」
聞かれても無視するI・O。
9話
115ページ
十億円にビビる神様。
I・Oって横田さんとか大村さんあたりにお小遣い(給料)貰って生活してるのかな?
120ページ
今気づいたのですがこのページのI・Oのコマ、1巻24ページから使いまわしていますね。
138ページ
「肝心の音那が何も言わねえ。何が正しいんだか今の俺にはさっぱりわかんねえんだ。」
I・Oの音那への信頼が伺える台詞。会ったら素直になれないくせに…。
141-142ページ
「…そいつもう呼吸してないよ。」
人の死体を見慣れていることが伺える良い台詞。
「や…やったわ長井っ、褒美は思うがままよっ。がんばれーっ。」
この台詞の虚ろさかなりすごいと思います。
うるるもちゃんと長井を大事に思っているとはいえ、アンカーでそう決められているだけのことだから中身がない。
明らかに長井はうるるの話を聞けるような状態じゃないのにこんな健気なことを言っています。不憫ですね。
この漫画はI・O(とマッハエース)以外の心情が滅多に表示されない一人称小説のような形態だからか、登場人物は相手に伝わらない台詞を言っていることがある。
154-155ページ
「あのさ…俺、お前があんまり邪魔だとはずみで殺しちゃうかもしれねえんだよ。
俺の前じゃいつでも死なねえ様に気を付けた方がいいと思う。」
善意で言ってる。
この台詞はかなり好きでI・Oが他人の命をどの程度に扱っているかが伺える。
でもI・Oの説明が下手すぎて真剣に受け取ってもらえない。
156-158ページ
このあたりのワクワク感はすごいし実際この漫画は巻が進むほど面白くなっていくのですごい。
I・Oの名前初出。
音那もI・Oの一応の名前を下で呼ぶ。
何らかのアドバイスをしているようですがこの言葉がI・Oに嫌疑を抱かせることになる。
音那も説明が下手すぎる。似た者同士か?
第3巻
10話
5ページ
「音那…」
求愛。
41ページ
I・Oは自暴自棄になりかけていますがこんなに問題が山積みだったら誰だって嫌になる。
I・Oがカンジに電話をかけているけどこのシーン全く会話が成立していない。
伝わるかは別として言いたいことを勝手に言っている台詞。
I・Oはカンジに妙に冷たいけど、こういう時に電話をかける相手はやはりカンジのようですね。ツンデレか?
I・Oの眼の前の地面に書かれたWORLD3は意味不明ですけどタイトルに含まれる”第三世界”に関係ありそうなところが作中でここしかない。
3巻終わりに「第三世界の長井 NAGAI IN THE TERTIARY WORLD」と書かれているがタイトルの英訳はこちらのほうが適当そう。
11話
46ページ
「俺が寝坊なんてありえねぇ。」
神と人の違いをさらっと説明する良い独白。
76-77ページ
このシーン良いですよね。
横田らの会議では何もするなと釘を刺される。うるるには助けようとしなかったとなじられる。
イライラした結果することがスタイリッシュに空き缶をゴミ箱に捨てるっていう。
それをしたら
「ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てて! みんなの公園でしょ?」
と真っ当な説教をされる。
ちなみに、この漫画は滅多なことじゃエクスクラメーションマークは用いられない(大声でも大抵台詞枠がギザギザするだけで済まされる)のですが、このシーンはその珍しいエクスクラメーションの使用シーン。
他はI・Oと音那の空中戦くらい。
匹敵するくらい重要なのかよ。
84ページ
うるる、I・Oに歩み寄る姿勢を見せる。
この辺優しいですよね。元になった女子高生の人間性の影響なのかも。
年下でタメ口を効く。あなた誰なのと聴いても無視する。長井に体液を分泌させようとする。長井は助けない。殺すかもと脅される。俺なら仲良くなりたくないが…。
87-100ページ
うるるとI・Oが急に仲良くなり始める。切り替えが早い。
I・Oは人懐っこい側面があります。
音那がガン無視を決め込んでいる長井等を観るためや情報収集以外の目的で、ツッコミを入れるなどの会話を試みているのはその現れだと思っています。
メタいことを言えばツッコミ不在だとギャグ漫画として不完全になってしまうからですが。
12話
109ページ
「要するに認識…解釈が全てなんです。現実を本当に観た者など誰もいない。」
重要シーン。
冒頭の”Real is no more than material."ってこの言葉を指しているんじゃないかな。
俺もこのエントリで散々I・Oや音那の心情をでっち上げていますけど俺が嘘ついているわけじゃなくて解釈が全てだから仕方ないんですよね。わかる。
このシーンの横田は音那にアンカーで操作されているのかな? よくわからない。
155-173ページ
久しぶりの音那との会話シーン。珍しく機嫌の良かったI・Oが一瞬で不機嫌になる。
ここ初見じゃわからなかったのですが、物理的に視線の通らない位置関係で会話をしています。
「肝心の音那が何も言わねえ。何が正しいんだか今の俺にはさっぱりわかんねえんだ。」
先程の言葉通りI・Oは音那を責めることは止め、(めちゃくちゃ高圧的に)説明を求めるI・O。でも断られる。
このシーンの音那はI・Oと喧嘩しに来たわけじゃなく、言うか迷ったかのような間を挟んで
「…お疲れ様」
と労いの言葉をかけています。逢いたかったんだなあ。
これまで不明だった音那の目的にI・Oが一応の推測をつけて、この辺まで読めば話がだいぶわかりやすくなりますね。道のりが長過ぎる。
音那のアイドル衣装はI・Oがプレゼントした物っぽいですけど、全然事情が想像できない。
音那はI・OがI・Oなりに世界の崩壊を防ぐ方法を考えていることが嬉しくて笑っているのですが、I・Oは大好きな音那に侮られたと勘違いして弁解も聞かずブチ切れています。
I・Oも音那も実年齢とか考えても意味のない出自だとは思いますが、I・Oは中高生で、音那は二十歳前後なので、I・Oは
「あのガキャ…」
と言いますが音那の方が年上です。伊藤潤一も
「あの小僧でも女でもねえ」
と発言しているので。
人が咄嗟に口をついて出る暴言というのは自分が言われて嫌な言葉らしいです。
つまりI・Oは音那に子供扱いされることが一番堪らないわけです。可愛いですね。
空中へ舞台を移してからはわからない事ばかりだ。
「いつも思わせぶりな事ばっか言いやがって…」
からかい上手の音那さん。
「みんなを助けられたらいいのに」
はコマとコマの間に書かれるというかなり特殊な描写をされています。
他のコマ外の書き込みとして2巻8ページでギャグ表現としてコマとコマの間に台詞が書かれていたり、博士の台詞が度々コマを突き破ったり、1巻12ページの「おわり」のようにコマに書かれていない言葉があります。
I・Oやアンカーで歪んだ存在と同じように、物理法則を超えた力を持つ音那はコマの中に収まらない言葉を紡ぐことができる。つまりこれは音那の言葉である。と解釈することができる。
風を切りながら落下してキャップをいつの間にか被っているところは何度見てもかっこいい。
I・O、この漫画の主人公なのに今まで目的とかなかったけど、3巻の終わりでようやく自分の存在意義を見つけるという目的を得る。
これ以降I・Oの人当たりがよくなる。
アンカーの制御の失敗、長井の死亡疑惑、鉄仮面、マッハエース、銀河連ぽう、すい星号(UFO)、ドングリ・フリーダム、何者かからのメッセージ。
これだけの頭痛の種があっても大好きな音那のカウンセリングで立ち直れるわけです。
愛の力。
第4巻
表紙
俺が気づいたわけじゃないので人のツイートを勝手に持ってきます。
https://twitter.com/kage77/status/918966092382453760
https://twitter.com/hiropon03/status/927540035074666496
良い表紙ですね。
13話
13-15ページ
この散歩シーンはTwitterでよくここ好きと言っている人を見かける。
I・Oが今まで自分一人で考えるかカンジに話すくらいしかしていなかった不満を初めて長井に零す。
長井も長井でI・Oの自称神という普通なら信じ難いことをちゃんと真面目に取り合っていたんですよね。
16ページ
「教えてよ。」
きつい喋り方が多いI・Oの子供口調。
教えろと言うほど親しくないし、教えて下さいと頼むほど大人じゃないからこう言う喋り方を選ぶのかも。
21-41ページ
このあたりからギャグシーンが糞面白くなる。
僕は『神聖モテモテ王国』を知らずに『第三世界の長井』が初読だったので今までのギャグシーンをなんだこれ…と思っていましたが3巻4巻の長井は口調とかだいぶまともで、普通にギャグ漫画としても面白い。
15話
117-124ページ
I・Oの笑顔バーゲンセール。
うるるがI・Oに誰? と聴くのは二度目。何なの? も含めるともっと言っている。
満足の行く回答を用意できないからいつも無視するんですね。
ここのI・Oは冗談と茶化していますが言っていることは全部本当だと思います。
この漫画の性質上ビルの凄春なんかを除いて過去編をやるとは思えないですが、いつかI・Oと音那の確執が語られたらいいな。ここでI・Oを観察しているようなコマが次の台詞に繋がる。
142ページ
「あんた…瞬きしてなくない?」
初読時かなりゾクっと来た。
人が瞬きしていないとかそうと思って観察しないとなかなか気付かないと思いますが、このあたりからI・Oをただの長井の友達ではない、正体不明の人物と勘付き始めたのでしょう。
171ページ
左上のコマかなりすごいんですよね。
このコマに登場している人物はアンカーで歪められたキャラクター達なのですが、その中にI・Oが交じることで、I・Oすらアンカーで歪められた、単なるキャストの一人という可能性を端的に表現している。
これまでの物語を一変させるパワーがある。
173ページ
「その茎の一部だったみたい。」
男性語で話す音那にしては珍しい柔らかい口調。
音那の口癖。
この辺、巻末はいつも盛り上がるけどよく考えてもほとんど何にもわからない。
Don't think.feel.
176-178ページ
I・Oの投げやりな態度は自分のアイデンティティが世界の所有者という一点しかないが、その世界が崩壊しかけていることが原因だと死の淵に立ってようやく語られる。素直じゃなさすぎる。
音那が何を考えているのかはわからない。
ここの音那の表情はI・Oに見られていないから取り繕ったものではないけどどういう表情なんだ。後悔かな?
I・Oと音那は本当に神か?
I・Oと音那は神、いわゆるゴッドと作中で目されているし、彼らも神を自称しますが同時に
「俺も所詮長井達みたいに…単なるキャストの一人なのか?」(4巻170ページ)
と、I・Oは自身が神であることに懐疑的な見解を述べています。
今までI・Oは神ってことでやってきたので、これは一見突拍子もない発言にも思えるのですが、I・Oは人間なのではないか? という考えを元に作中の情報をまとめるとどうも人間のようにも思えてきます。
以下に考察を示します。
I・Oと音那が神と称される理由は以下の3つです。
- 物理法則を破る力を持つこと
- 一般の人間が認識し得ないものを認識できること
- 「神」と呼ばれる仕事を行っていること
順番に確認します。
1つ目。
物理法則を破る力を持つ点は長井以前は彼らだけの物でした。
「博士は今日から宇宙人の侵略が始まるって言ってたけど…さすがにそれはないんだけど…」(1巻37ページ)
「この力…やっぱりこいつ等簡単に物理法則を破っちゃってる…因果律が限界だからこんな奴等が出てくんのか…」(2巻51ページ)
今や多くの異星人達が物理法則を破る力を持っているため、物理法則を破る力を持つ者は神であるとは言い難いです。
「ただ…アンチテーゼがどうしてあんな特別な力を持ってるのかは…」
「そ…それなんだよな、みんなが歪んでくのはともかくあんな力はどっから…」(2巻122ページ)
「俺達の他にも神がいる。もしかして本物の神かも。」(4巻168ページ)
「俺も所詮長井達みたいに…単なるキャストの一人なのか?」(4巻170ページ)
これらの台詞は物理法則を破るような力を持つ事と、人格に負荷がかかって歪んでしまう事の2つは本来無関係の事柄とである事を示しています。
2つ目。
上記の通り物理法則を破る力は、I・Oと音那の知り得ない何かが関わっています。
「I・Oは我々一般の人間が認識し得ないものを認識されてますよね?
アンカーの書き換えなど…
現実を俯瞰視できると考えられるI・Oが存在されるという事はつまり…
我々の現実にはそれを俯瞰し得る外…上の領域があるという事です。」
(3巻105ページ)
I・Oと音那は人類の認識領域の外を認識できます。しかし、作中には I・Oと音那より上位の事柄を知っていると目される「本物の神」の存在が見え隠れしています。(米原潜が圧潰したシーンが顕著。後述)
神の中でも力の強弱があるという解釈でもいいのですが、I・Oと音那は一般の人間より認識できる範囲が広いだけの人間、神役のキャストと言い換えることも可能です。
3つ目。
この作品における「神」というのは一般的に想像されるものとは別に、職業のような概念として使われています。それを示唆する台詞は作中に多く登場します。
「…神。…もうやめたけどな。今は…もう俺が誰なのか俺にもわかんねえな。」(2巻32ページ)
「これは音那の仕事じゃねえか。あいつ俺が人がいいと思って巻き込みやがったんだ…」(3巻125ページ)
「俺の仕事じゃない…捨てた世界だ…世界を見捨てた俺には手を出す資格なんてない…」(4巻60ページ)
(関係ないが博士について「40歳無職。職歴ナシ!」と紹介した長井の言葉にI・Oは「うわ…」と引いている。)
I・Oは神を自称したり世界は俺の物だという主張を度々繰り返しますが、I・Oは職業としての神であることは否定する場面が見られます。
「お前はこの俺の神デスカ?」
「さあ…」
「オイ。」
「いや…俺さあ…神とかI・Oとか…オカルト系の奴からはゴッド・メンシュとかいろいろ呼ばれたりするけど…」(4巻14-15ページ)
台詞は途中で途切れていますがこのような言葉が続くのでしょう。
「今は…もう俺が誰なのか俺にもわかんねえな。」(2巻32ページ)
「俺が誰なのか俺が知りてえんだよ。」(4巻143ページ)
この台詞からはI・Oは自身が神であるという認識を得たのは人にそう呼ばれたからで、神と自称したのが先ではないことがわかります。(誰がそう呼んだかというと音那と音那の関係者と思われます。詳しくは後述。)
人に呼ばれるより前に自分が神である自覚を持ったのならば、神と呼ばれることがなくなったり音那との仕事をやめた後も自分は何者か? なんて疑問は持たないはずです。神だから。
「世界は俺のもんだ。気付いた時からそうだった。」(2巻の終わり)
この言葉は「この世界の所有者」と職業としての「神」の二語が一致する物ではない事を示しています。
職業としての「神」は音那に巻き込まれたと述べているため、少なくとも気が付いてすぐというのは考え難いです。
「…神。…もうやめたけどな。」(2巻32ページ)
「世界は俺のもんだ。気付いた時からそうだった。」(2巻の終わり)
「俺達の他にも神がいる。もしかして本物の神かも。」(4巻168ページ)
現在のI・Oの自己認識は「世界の所有者」かつ一般的な「神」の2つです。
音那は一般的な「神」かつ職業としての「神」なのでしょう。
「てめえ程度の半端な紛い物が持ち上げられて調子に乗りやがって…」(3巻166ページ)
二人の立場の差はこの言葉にヒントが隠れているように感じられますが、詳しいことは不明です。
I・Oの認識を整理します。
- 道で立っている事に気付いた時から世界は俺のもんだった
- 音那の仕事に巻き込まれることで、神とかI・Oとかゴッド・メンシュと呼ばれた
- 口は出さない。アンカーは封じる事を音那に約束して、やめて、部外者になった
- 1から3のいずれかのタイミングで自分が一般的な「神」である自覚を持った
- 現在、世界は俺のもんで、自分と音那は一般的な「神」だと思っている
こうなります。
作中でI・Oが神であるという情報が示される台詞を列挙します。
「…世界を見放しといて言いたい放題か。」(2巻6ページ、音那)
「…神。…もうやめたけどな。今は…もう俺が誰なのか俺にもわかんねえな。」(2巻32ページ、I・O)
「あんな子供が連中の言うゴッド・メンシュ…I・O…」(2巻156ページ、公安)
「世界は俺のもんだ。気付いた時からそうだった。」「崩れながら落ち続ける今ある世界が俺の世界だ。」「(2巻158ページ、I・O)
「いや…俺さあ…神とかI・Oとか…オカルト系の奴からはゴッド・メンシュとかいろいろ呼ばれたりするけど…」(4巻15ページ、I・O)
「俺達の他にも神がいる。」(4巻168ページ、I・O)
「ここは…お…俺の世界だ…俺には…ほかに何もない…、I・O」(4巻177ページ)
彼らを神と認めているのは全てI・Oとその関係者、狭い範囲の人間であることがわかります。
「みんないろんな事訳知り顔で好き勝手講釈たれてくるよ。お前も博士も俺の仲間も…宇宙人達だって…」(2巻138ページ)
この台詞が表す通り、作中の人物はそれぞれの視点からしか物語を観ることができません。
それは「本物の神」を除けばこの物語を最も高位の視点から観ていると思われるI・Oや音那、彼らに従属する横田等I・Oのシンパ、「音那側」も例外ではありません。
故に、I・Oや音那が神を自称しているからといってそれが事実とは限らないのです。
例えば4巻59ページで米原潜が圧潰したのを観たI・Oは
「…ドングリ・フリーダムがやったのか? それとも事故?」
と原因を推測していますが、博士の目的は宇宙人を殺すことなのでアメリカ軍を攻撃するのは辻褄が合いません。その直後には
「・全ての海の底に棲まう怪物」
と、その時点でI・Oの知り得ない邪神星人の存在を予知する、何者か(「本物の神」)からのメッセージが挿入されています。
このシーンはI・Oの思考や主張の全てが正しいわけではない証左となるでしょう。
I・Oより上位の目線であると考えられる『第三世界の長井』のあらすじのような文章で、I・Oは神であるという文言がはっきりと書かれたことはあるのでしょうか?
「全てを認識可能な主人公の物語。」
とあらすじに書かれているのは確認しました。
第7話 神の死骸
第9話 壊れた神と序章の終わり
サブタイトルで神が含まれるものにこれがあります。
I・Oの自己認識を探るため彼が神である場合、奇妙に映る言動を取り上げます。
「人の足元でティッシュ箱の構造探ってんじゃねえよ。」(2巻6ページ)
I・Oは自分を指して人と言っています。
尤もこれは言葉の綾というもので、この台詞一つとってI・Oの自己認識が人間というのも無理があります。
I・Oは音那が戦争を引き起こし人類を間引き、つまり殺そうとしていると考えて強く忌避していますが、これに悪感情を抱くのは人類から見た考え方です。
世界が崩壊すれば人類は全滅あるいは生きているとは言えない状態になります。
人類を半分に減らして世界を存続させるのは、音那が本当に人より上位の存在の神であるなら理屈の上ではそんなに悪い事とも言えません。
自分達が人間であることをI・Oは半ば認めているのではないでしょうか?
I・Oが人間でないことを裏付けるような情報が、I・Oとその周辺人物の口以外から一つ示されています。サブタイトルです。
第7話 神の死骸
第9話 壊れた神と序章の終わり
サブタイトルはI・Oが付けているわけではないためI・Oより上位の視点と言えるのではないでしょうか?
「神の死骸」や「壊れた神」という形容はI・Oに合っているように思えます。
これは解釈が微妙ですがI・Oはかつて神であったとか、かつて神であったものがI・Oになった、と言うような意味で、I・Oはこの作品世界の神様だという肯定する物はありません。
「神の死骸」は作者ながいけんの前作『神聖モテモテ王国』に登場したフレーズのようですが、真意はわかりません。
「俺も所詮長井達みたいに…単なるキャストの一人なのか?」(4巻170ページ)
この言葉が真実であるか否かは、ながいけん先生のみぞ知ることです。
材料はあっても断定はできません。僕としてはI・Oは人間と考えて読んだ方が色々と納得ただの解釈なので。
Q.そんな結論だったらこんな考察する意味なくない?
A.「…お前は表層だけを見てそこから推察するつもりはないのか?」
I・Oは持っている感覚は普通の人とそう変わらないのに人をたくさん殺したことや普通の人に見えない物が色々と見えてしまうことを引け目に感じて
「俺はあいつの側にも他の奴の側にも行けない。」(3巻154ページ)
とあらゆる人に壁を作ってしまう性格です。孤独です。カンジや長井やうるるにすら一歩引いてしまいます。
音那以外I・Oの側にいれる奴はいないんです。
早く仲直りして結婚して欲しい。